そんな作業は当然ながら、ものの数分で終わってしまい。


――――どうしよ。

カズくんたちは寝たばかりだし、勝手にどこまでやっていいのかまだわかんない。
それに、そろそろ朝食食べたいかもしれないし。でも、ユキセンセはなにか食べたいものが決まってるかもしれないし……。


手持ち無沙汰になってしまったわたしは、勇気を出して、なるべく言葉を短くして問いかける。


「あの、お腹すいたり、やることがあれば言ってください」


勇気を出したのに、センセは固まった石のように全く動く気配がない。
わたしの言葉がなかったかのように感じ始めた、そのとき。


「……おにぎり」


……え? 今、なんか言ったよね? あまりに返答まで時間掛かったし、不意打ちすぎて自信ないけど……。


「お、おにぎり?」
「ん」


その返事もまた短い。
だけど、今度はちゃんと耳を大きくして聞いたから間違いない。確実に「ん」って肯定したよね!


「えーと……中身の希望とか……個数とか」


そこからまた沈黙が始まる。


ああ。なんか大体掴めてきたかも。
この類(たぐい)の沈黙は、怖がることも恥ずかしがることもないんだ。これがユキセンセなんだ。


そんな発見をしたわたしは、ひとりでちょっぴりうれしくなる。
俯いて少しはにかんでたら、やっぱり予想通り、ちゃんと返事が返ってきた。


「うめとかつお」


……意外に渋っ。

心の中で驚きの突っ込みをしながら、口では「わかりました」と動じないフリをして、わたしはリクエスト通りにおにぎりを握った。