恋夜はあまり、自分のことを話したがらない人間である。


佳那汰が恋夜のことで知っていることといえば、母子家庭であることと、学校近くの古着屋でバイトをしていること、カラオケの十八番がELLEGARDENなことくらい。


本人が話さないから、佳那汰も家庭のことやバスケのことを自ら聞いたりはしなかった。


だから、心のどこかがぽっかり空いた恋夜を、ある日柔なかロマンティックが荒々しく連れ去った九月のあの日を、なんだか少し嬉しく感じた。


皇律子……学年の男子が『抱きたい女ナンバーワン』と口を揃える少女が、日に日に恋夜を別の世界に連れ去って行くことに、ある種の悦を感じるのだ。


佳那汰にとって、律子は恋夜とは違うキラキラを放つ別世界の住人。


恋夜が角の尖った星をキラキラさせているのに対して、律子はカラフルなパステルカラーのふわふわしたキラキラを持っている。それも、無尽蔵にだ。


やはり佳那汰にとって、それは羨ましくもあり、全く1ミリも理解出来ない世界。


それでも、佳那汰の価値観を少し変えた恋夜が再びキラキラしているのを見るのは、佳那汰にとって楽しみなことである。


あれ……もしかして、俺の生き甲斐これだったりして、なーんてね。