【完】籠球ロマンティック

その少年は、強豪我妻北中のメンバーの中でも、群を抜いて巧い。


授業でしかバスケをしたことのない佳那汰にも、それが手を取るように分かる程だ。


ボールを保持した18番に、一番足の速い佳那汰がディフェンスについた時。


少年は、右足を軽やかに上げて後ろから股の間にボールを通すと、ニヤリ、と不敵に微笑み一瞬で佳那汰を置き去りにする。


反応することさえ、出来なかった。何でも出来る佳那汰にすら、体を1ミリも動かすことが出来なかった。


少年の残した微笑の残像が脳裏に焼き付いたまま振り返ると、彼はもう、ゴール前でぐんと踏み切り空中に。


ダァァン、とコート中に割れんばかりの音を撒き散らし、片手で軽やかにダンクを決めてしまった。


18番の彼からは幾数もの星が飛び散り、彼自身を輝かせている。


なんてロマンティックな光景なのだろう、と佳那汰は試合中にもかかわらず、小さな感動で足を止めた。


よし、彼をねずみ小僧ならぬ、キラキラ小僧と名付けよう。


佳那汰は心の中で、彼のあだ名を決めて頷いた。