思えば、佳那汰には何でも出来るが故に何もなかった。


勉強も授業を聞けば誰よりも出来たし、スポーツも苦手な物はない。


小さな頃からやっている水泳も、本気になる物というよりは本人にとっては習慣であるが為に本気になれる程のものでも無く。


佳那汰は物心がつく頃より、自分への物足りなさを感じていた。


だが、だからと言って何かにのめり込む周りを羨んだり、逆にバカにしたりという気持ちも沸き上がらない。


……筈、だったのだ。中学年三年生の、あの日さえなければ。


後に親友となる『香椎恋夜』との、あの日の出会いさえなければ、物足りない日常に、きっと何の疑問も無く生きていただろう。


佳那汰にとって、恋夜は物足りなさを感じる自分とは別の世界に生きる、キラキラした一番星なのである。