55番の方に目をやると、まるでダンスを踊るように、軽快なステップを踏みながらボールを操っている。


不規則なリズムで刻まれるステップに合わせ、反して規則的なドリブルが身体中を纏う。


「イツのパフォーマンスはたまに見れるんだよ。彼の気まぐれだけどね。聞いたことくらいはあるでしょ?フリースタイル」


ハーシーの後ろからの解説に、俺は曖昧に頷く。


海外の試合なんかを衛星放送でたまに見るけど、生で観るのは初めてで観るのに夢中になってしまう。


「へぇぇ、ホント巧いなぁ、あの55番」


「……気持ち悪い」


思わずその技巧に見惚れていたけれど、隣のリッコがそう呟いたものだからぎょっとして視線を移す。


なんか、オルフェが出てきてから、リッコはどうもテンションが低い。


「なんだ?あんた、実は体調悪いの?」


そんなリッコは見たことなかったものだから、暗がりの中、顔色を伺うためにその小さな顔にそっと顔を近づける。


「わお、この角度からだと、キスしてるみたーい!」


「オッサン煩い。なんか、リッコ調子悪いっぽくてさぁ」


やっぱり抜けた声のハーシーにバッと顔を上げた時、事件は起きる。


「恋夜危ない!」


「はっ……おわ!?」


佳那汰の声に瞬時に体が反応した。


俺は、どうやら無意識にそれをキャッチした。狙ったかのように飛んできた、ボールを。