「帰ろうレン。私達の戻る場所に。あまり遅くなるとイツがぶちギレるわ」


本当はもう少し、二人きりでいたい気持ちが無いと言うと嘘になる。


けれど、二人の戻る場所は、二人でいる時よりもずっと温かなあの空間で。


「そうだな……リッコ、試合が終わったら、今度は、二人きりでどこかに出掛けよう。あんたの時間を、俺の時間をゆっくり『束縛』する為に」


「うふふ。なんだかレンから『束縛』って言葉言われると、嬉しい気がするわ」


曖昧にしてきた、二人のどこかで結ばれた想いの何かがクリアに見えて、それだけで、どうしようもなく幸せに思える。


登るときは木を伝ったのに、降りるときはそのままひょい、と屋根から飛んだ恋夜。


その姿は、『スネイク』の名にはあまりに相応しくない、大きな翼で飛び立ちそうな鳥のように律子は見えた。


「リッコ、あんたも来いよ」


「……うん!」


下で、リーチの長い腕を伸ばした恋夜はやはり、少年らしくあどけなさの残る、儚げな、夜の闇に消えてしまいそうな笑顔。


けれど、信じて飛び込めば、その、細いけれどバスケをしていてがっしりとした胸が、腕が、いつでも律子の小さく柔らかな体を支えてくれる。


恋夜の甘い体臭と、外気に晒されて夜の空気を吸い込んだ胸板に、律子は気付かれぬように口付けをひとつ、小さく落とした。