「レンもこっちおいで」


葉月が、未だドアの内側に入って来ない恋夜に声をかけた。


恋夜はまだ高校一年生だ。15、6歳の少年には、少し刺激の強い光景だったかもしれない。


葉月は切なくそう思い、ほろ苦さを込めた瞳で恋夜を見つめた。


「ラブ、大丈夫……か?」


そんな恋夜に逸人も心配になり、左眉毛を下げて恋夜の様子を窺う。


しかし、恋夜は葉月や逸人の想像の、斜め上を行く言葉を発した。


「き、れい、だな。眠り姫みてぇ……」


恋夜は、葉月の甘やかな空気と少女のまま眠った彼女を、神秘的だと思って見ていたのだ。


その思っても見なかった反応に、葉月は一重瞼の大きな瞳を丸々と見開く。


「ねぇ……ハーシー、聞いていい?どうして彼女は眠ってるの?」


聞かずにはいられなかった。それが、聞いちゃいけないことだったとしても、恋夜はそうせずにはいられなかったのだ。


純粋な、嘘ひとつない真っ直ぐな恋夜の声に、葉月は不思議と不安の霧が晴れて行く感覚に陥った。


「……うん。少し長くなるかもだけど、付き合って、くれる?」


彼女の傍らに腰を下ろした恋夜と逸人は、いつもと違う大人の顔をした葉月に、小さく頷いた。