ピッピッピ……と、規則正しい機械音に包まれたその部屋は、感じたことのない空気が流れている、と逸人は思った。
部屋に踏み入れた瞬間、自分より20センチ近く小さな葉月が甘やかな香りを漂わせたことに、更に困惑した。
いつも、暖炉のような暖かなオーラを醸し出す葉月とはまた違う、愛しい想いが匂い立つような表情。
ああ……ハーシーはそれだけあの人を愛しているんだ。
幾数もの線の繋がった、命の灯火が今にも消えそうな儚い女性を見つめる葉月に、逸人はただただそう感じた。
そんな逸人の困惑を何となく感じた葉月は、それでも怒ることも悲しむこともせず、柔らかく微笑む。
「ごめんね……驚いたでしょ?」
「い、や!……ううん、驚いた、ごめん。彼女は、意識はあるのか?」
「あるよ。返事はないけど、話してることや自分の状態は理解してるんだって。……金石、いつも話してるイッツんと、レンだよ」
返事のない彼女へ向けて送った葉月の声がとろけるような甘い声で、逸人は自分の吸い上げた空気が生クリームよりも甘いもののように感じる。
それと同時に胸がじくじくと痛む。彼女は、葉月を認識し、自分の状況を認識しているのに、返事をすることが出来ない。なんて酷なことなのだろうか。



