「これが、私とイツと、あの傷の全てよ。イツはね、私のせいで沢山のものを失ったの」


全てを話して、律子はそっと自分のサイハイブーツの丸い爪先を眺めた。


恋夜はこの長い話を、たまに相槌を聞きながらも、文句ひとつ言わずに聞いてくれた。


それだけで、ぽっかり空いた風穴が狭まったような感覚になるから、不思議なものである。


「イツはね、あの日のせいで引退して、知り合いの伝で今のスポーツショップに働き始めた。それで、更にその伝でストリートボールに出会ったのよ」


「うん」


「私もイツの影響でね、すぐ夢中になった。私もあのキラキラ輝くコートで試合がしたいと思ったの。幸い、男女混合でも許される世界だったからね」


律子の話を聞きながら相槌を打つ恋夜の声は、とても柔らかく、心地の良い気分になるもの。


「レンのことはね、去年の中体連の予選でたまたま見かけたの。あの頃から、君は羽ばたいていたわ」


「そっか、初めて喋った日も、俺のあの時の背番号叫んでたよな」


つい数ヵ月前の出来事を、昔を慈しむように語る恋夜の目は、普段はつり上がっていてキツい印象なのに、くぅっと細まって、二重瞼には数本優しい皺が寄っている。


恋夜は律子にとって救世主。恋夜の羽ばたくような軽やかなプレイに触発されて、律子は『やりたい』から『やってやる』に気持ちをシフトすることが出来たのだから。


悲しくはないが、律子の瞳からは再び涙が溢れ落ちる。