救急車で運ばれた律子と逸人は、それぞれに治療を受けた。


律子は三針の傷で済んだが、逸人はそれどころでは無かった。


逸人の傷は、バスケの選手としては致命的なものである。


オールコートを10分も走ることは出来ないだろう、と医者に勧告されてしまった。


オーストラリアに短期留学し、プロとして即戦力で戦っていた逸人のバスケを、律子は自らのエゴで結果的に奪ってしまったのだ。


病院から連絡の入った両親は、治療の済んだ兄妹を見て、苦虫を噛み締めるような表情を取る。


そして、母は足をよろめかせ座り込み、父は迷うことなく律子の元へと向かい、律子を大きく振りかぶって殴り飛ばした。


「親父!何すんだ!リッコは女だし怪我をしているんだぞ!」


すかさず律子へ足を引きずりながら駆け寄り庇うように声を張った逸人。


そんな兄妹へ向けて、父は冷たい瞳で言い放つ。


「いいか、そのバカ娘のせいで、お前の、俺と母さんの夢は潰えたんだぞ!」


その言葉で、律子は全ての機能を失うこととなる。


両親にとって、愛情を注ぐべきは逸人であり、律子はおまけに過ぎない。選別するとしたら『不要なもの』だったのだと気付かざる得なかった。