やっぱり、やわらかかった。
やわらかいんだ、音が。
心に張った、線が震える。
ポロン、とこぼれる単音は、本番の今日、さらにトクベツなものとして聴こえる。
…すっげ、うまく弾けてんじゃん。市ノ瀬。
耳に流れ込んでくる、よどみのないやさしい音に、そう思った。
伴奏が、歌い始めのところにさしかかる。
ずれることなく、きれいに、全員の声が重なった。
ゆるやかな1つのかたまりを創って、合唱になる。ちゃんと歌ができていく。
―あおい そらに
―きみは とびたつ
正直この歌詞は、好きじゃなかった。
意味がよくわからないから。
だから歌詞として覚えるんじゃなくて、市ノ瀬の声そのもので覚えていた。
ーしろいくもを こえて
ーにじの みどりを くぐって



