そんな黒い空気に溶け込むように、おれはイスにぐったりともたれると、長めの息を吐いた。
『親とちゃんと話せよー』
…親と、とか。
息を吐ききってしまうと、空っぽになった胃が痛くなる。
ちゃんと、とか。あの人と話すことなんて何もないのに。遠い目をして、そう思う。
仕事で忙しく、帰りも遅い母親。
見事にずれている生活リズム。
家ではここしばらく、会話らしい会話が生まれていなかった。
進路希望調査票。
こんなものもらったって、机の中のくしゃくしゃのプリントが、1枚増えるだけだ。
イスにもたれながら、顔を動かさないように、視線だけを上げた。
目に映った市ノ瀬の背すじは真っ直ぐ伸びていて、もうちゃんと、授業モードに切り替わっている。



