白い指が、楽譜からすべり落ちる。
ふわりと頬がゆるむ瞬間を、間近で見た。
「わたしが歌ってみるから、続けて歌ってみてもらってもいい?」
遠慮がちに。首をすこし傾けて尋ねる市ノ瀬に、「ん」とうなずく。
この短い時間だけで、市ノ瀬の声をたくさん聞いた。
もったいないくらい、もう少し分配してもいいくらい、一度に。
話し声だけじゃない。歌声もだ。
「…あおーいそーーらにー」
市ノ瀬が先に、1フレーズ分を歌った。
言われたとおり、その声を真似て追いかける。
同じ音になるように、追った。
「あおーいそーーらにー」
「きみはーーはばーたくー」
「きみはーーはばーたくー」
市ノ瀬。おれ。市ノ瀬。おれ。
絶対につかまえられない、追いかけっこを繰り返す。



