市ノ瀬の指が、楽譜に並んだ音符をなぞりはじめる。
触れられた音符は、急にツヤツヤ光って見えた。
そんなわけないのに。命を吹き込まれたみたいに、生き生きして。
一緒にのぞきこむから、おれと市ノ瀬の距離は、自然とさらに縮まった。
心臓がドクドクうるさい。
でもこの感覚は、嫌じゃない。
「…ここまで、歌ってみて?」
市ノ瀬が、楽譜を指さして言った。
最初の小節だ。あわてて目で追って、なんとなく声に出してみる。
「あ?あー……あおーいそーらにー…?」
「あ…えっとね。この音符は、二分音符だから、『そ』はもうちょっと伸ばすんだ」
「…そーーらにー?」
「うん、そんなかんじ。あとね、ここ、ミじゃなくてソ、だから。すこし、高さが上がるの」
「ミソ…?調味料…?」
「………」
「………?」
「……楽譜見てするの、やめよっか」



