あわてて、市ノ瀬のもとへ駆け寄る。
音楽室が、音を抜かれたように、シュッと静まり返った。
おれがすぐそばに来たのに気づくと、市ノ瀬はあわてて、両手で顔をおおう。
「え、なっ…んで泣いてんだよ…!?」
ビビった。え、おれの歌、そんなにヒドかったか。
あわてるけど、市ノ瀬は横に首を振るだけで、なにも言わない。
「いちのせ…っ」
「ありがとう」
隠されている口。
両手のすきまから、市ノ瀬の、風鈴に似た声がこぼれた。
「歌ってくれて、ありがとう」
カァ、と。
顔が赤くなるのを、止められなかった。
「…うーわー!!うわー、レオ、おいっ!!」
両手で顔をおおったままの市ノ瀬。
口をパクパクさせながら、突っ立ったままのおれ。



