廊下に出た先生が戻ってこないのが、不思議なくらい。
壁にかかったモーツァルトやベートーベンがまゆをしかめだすんじゃないかと思うくらい。
そんな、お祭り騒ぎが始まる。
「み、みなさんっ!では、えーと…1番のサビ前まで、」
委員長の声なんて、まともに聞えてこない。
授業中の歌の、比較にもならなかった。
クラスメートたちは、完全に自由に過ごし始めていた。
おれだって。
自分だっていつもなら速攻で席を移動するかもしれない。っていうかすると思う。
でも、できなかった。
だって市ノ瀬はまだ、ピアノの前に座ったままだったから。
オロオロする委員長のかげに、体をかたくしている市ノ瀬の姿が見える。
「ねー、レオー!!こっち、こっち来て!!」



