「もう1度ここから!みんな、ちゃんと声出して!さんっはい!!」
そんな先生のかけ声に合わせて、市ノ瀬は、何回も同じ箇所を弾き直させられていた。
何度繰り返したって、かぶさる声の量は変わらないのに。
かぶらないまま、なにも着せられないまま。
小さなピアノの音だけが、裸同然で、空気に放り出されていく。
…なんか。
心の中にフツフツしたものがわいてきて、おれは口をへの字に曲げていた。
なんかこんな、やる気のないカタマリみたいな中で、前に出されて。
ピアノ、何回も弾かされてさぁ。
もったいねーし。こんなの市ノ瀬が、さらし者みたいじゃねーか。
弾いている当人でもないのに、おれが無性に、イライラしていた。
こんな状況で前に出させる先生にも、こんな状況にしてしまっている、自分たちにも。



