自然と前のめりになって。
おれは、市ノ瀬の演奏が聴こえてくるのを待ってしまっていた。
まずはサビに入るところまで。
そういう指示で始まった、課題曲の練習。
ポロン、と待っていた音が鳴る。でも。
…CD音源を使おうが、生のピアノ伴奏を使おうが、のっかる歌は同じなんだ。
おれたちの歌は、ひどかった。
一応先生がいるから全く歌わないってことはないけど、やる気がないのは明らかだ。
聴こえる声は途切れ途切れで、とうてい歌とは呼べないレベル。
トーンも低いせいで、まるで葬式で読みあげるお経のよう。
…それに合わせるせいだろうか。
市ノ瀬のピアノの音は、前に聴いたときよりもずっと小さく、抑えられていた。



