先生が、おれたちの中から市ノ瀬を見つけて言った。
その質問に、市ノ瀬が小さく「ハイ」と答える。
…思いがけない、サプライズだった。
今日の夕飯なんだろ。
雑誌の発売日、明後日だっけ。
そんな風にあちこちに飛んでいた意識は、一気にこの音楽室に引き戻されて。
「あー。伴奏、やっぱ市ノ瀬さんかぁ~」
そんな風に、どこからか上がった声。
市ノ瀬がピアノを弾けるってことを、一部のクラスメートは知っていたみたいだ。
先生に呼ばれたとおり、市ノ瀬は、音楽室の前に置かれるピアノのところまで歩いていく。
イスを引く腕。腰かける、細い体。
キュッと、結ばれたくちびる。
市ノ瀬の、横顔。
無関心をよそおった顔で見ていたけれど、姿勢は正直で。



