自分以外だれもいない感覚は、いつか味わったことのあるものだった。
いつだったか。そんなことを考え始めるよりも前に、頭の中に浮かんできた光景。
2年生の、あのときだ。
真子がピアノを弾く現場に、遭遇した日。
『…気にせず、弾けば』
1台のピアノ。
見つめるおれ。見つめられる真子。
放課後の音楽室は、世界から切り取られたみたいで。
自分と、真子以外の全部が消えてしまったような…そんな錯覚に、おちいったんだ。
思い出とちょうど重なるように、音楽室のドアが目の前に現れる。
もう1度来ておきたかった、思い出の場所。
耳をすましてもピアノの音は聞こえないけど、おれを迎えるこのドアは、あの日のままだ。
あの日のおれは、ホウキとチリトリなんかをぶら下げて、多分ものすごく不機嫌な顔をしていた。



