カラン、と鳴る氷の音。
おれたちの間にある2つのグラスは、両方とももうほとんど空だ。
ついでこようと思った瞬間、裕也が口を開いた。
「…もしかして、市ノ瀬さんがO大受けるって言わなかったこと、まだ気にしてんの」
「………」
…なんでコイツは、アホなくせに。
そうやって急にするどく、言い当ててくるかな。
息をついて、ガシガシと頭をかく。
「そういう、わけじゃ…」
でも少しちがう。べつに気にしてるとか、根に持ってるとか、そんなんじゃないんだ。
ただ…いつでも会える近い距離にいても、ひとつ言葉が欠けるだけで、崩れそうになるってこと。
そのことを、知ってしまったから。
それだけじゃない。受験真っ只中のとき、おれは自分だけで精一杯で。
真子との時間を、大切にする余裕なんてなかった。



