きみは金色



市ノ瀬とは結局、今日まで話さずじまいだ。


教室や廊下。大勢の中では、おはよー、なんて言う機会もなくて。



放課後。1度だけ、渡り廊下を歩く市ノ瀬を見かけた。


決して早足なわけじゃないのに、背筋を伸ばしたその姿は、おれの視界をあっという間に流れていって。


市ノ瀬はその時も、ピアノを弾きに、ここに向かっていたのかもしれない。



1人残って、練習したんだろうか。


またあの曲を、奏でたんだろうか。でも、どうして。



…どうしておれは、こんなにも市ノ瀬のことが気になるんだろう。



それがわからなくて、モヤモヤする。


少し前までは、関わることのない優等生のイメージしか、なかったはずなのに。