授業も開始直前だ。
ゾロゾロと入ってきた生徒たちのせいで、視覚的にも暑苦しさが増していた。
「オンダンカってヤツじゃねー?」
「適当に言わないでよねっ!!裕也、ちゃんと意味わかってないでしょ」
「はー?バカにすんなよー。オンダンカはぁ、えーっと…」
「ちょっと!ケータイで調べるのなしっ!!」
裕也と希美。2人のアホ漫才をぼうっと聞きながら、長袖を肘上までまくる。
明るい日差しの中。
音楽室にあるのは、放課後に向けての、にぎやかでソワソワした空気だ。
…同じ場所じゃ、ないみたいだ。
クラスメートがひしめく室内に身を置きながら、そんなことを思う。
おれと、市ノ瀬と。
2人だけしか世界にいないような気がした、あの日の音楽室とは、まるきり別の場所。



