「…なに、弾こうかなぁ」
その十数分後。
おれたちはさっそく、音楽室に足を踏み入れていた。
音楽の授業は、受験や就職に時間を取られるせいで、最近ではほとんどない。
久しぶりの音楽室は、懐かしくて。
でもこんな朝方に来るのは初めてで、なんだが変な気分になった。
懐かしい、と新しい、が混ぜこぜだ。
ピアノの前に腰かけた真子の背すじは、やっぱりピンと伸びていた。
何の曲にしようかー、なんて。
考えをめぐらせている真子は、すごくウキウキしているみたいで、とてもかわいい。
一方でおれは、静かな音楽室を落ち着かない気持ちで見渡していた。
いかつい形のまゆ毛をしたベートーベンの絵と、目が合う。
…ピアノが聴きたい、なんて。
冗談で言ったことが、まさか本当になるとは思わなかった。
というか、授業以外で鍵を貸してくれることがまずビックリだ。



