だから、きれいなものに触れたかったんだと思う。
真子のピアノの音は、心が洗われるかんじがするから。
あの澄んだ音は、初めて聴いたときからずっとおれの体に染み付いていて。
でももう2度と聴けなかったら、忘れていってしまうような気がした。
「うん、いいよ」
「……へっ」
ほんの冗談で言ったことなのに、飛んできた返事は予想外のものだった。
ガバッと、顔を上げる。
真子と目があって、驚き顔のおれに、真子はちょっとだけ口元をゆるめた。
その笑顔をよりいっそうやわらかくゆるめて、真子は言ったんだ。
「……音楽室、いこ」



