「音楽室で、レオくんが1人で歌ってくれたときのこと」
「………おー」
まだ真子が市ノ瀬で。
おれが市ノ瀬を好きだと、自覚する前のことだ。
市ノ瀬が気になって気になって。仕方なくて。
ピアノがもったいねぇって、ど下手くそながら、声を張り上げた。
「嬉しかった。それと同時に、すごいなぁって思ったの」
「…いや……あれは…」
…あれは、ちょっと。思い出すだけで、恥ずかしいっつーか。
なのに真子は、ふわりとした笑みをおれに向けて、ものすごく大切な思い出を語るみたいな口調だったから。
だから余計に、照れてしまった。
「レオくんはね、」
続けて、やさしい声で話す真子。
「自分の弱いところも、笑って見せられる。弱いところも、強みに変えてしまうでしょ?」
「………」
「だからきっと、みんなレオくんについていくの。引っぱられちゃうんだよ、自然に」
左右対称じゃない、決して完璧とは言えない砂の城。
おれが掘った穴の中にそっと手をもぐらせて、真子はつぶやいた。
「…すごいね。レオくんは、すごい」



