「…もっかい言っとくけど。進路、ちゃんとどっちかに定めとけ」
「………」
「早めにな。絞ってやった方が、絶対に有利だ」
背中だけが、廊下の空気に触れて寒くなる。
何も返せないでいるわたしに、岩崎先生は、真面目な顔でこう言った。
「周りにどんなヤツがいるか、じゃない。後々に後悔しない選択は、本当に自分の進みたい道を選ぶこと。な」
「………はい」
「…ま、そんなもっともらしいこと言える人間じゃないけどなー。おれ」
「…いえ、あの……ありがとう、ございます」
カクン、ともう一度礼をして、進路相談室を後にする。
踏み出した廊下。シンと冷え切った廊下。
わたしにしてはずいぶん早足で、その上を歩いた。
『周りにどんなやつがいるか、じゃなくて』
さっきの先生の言葉が、頭の中いっぱいに膨らむ。
『本当に自分の進みたい道を』
そうだね。そうだよね。
わかってる。言われることが正しいのは、わかってる。
…でも、わたしは。



