怒ってもいいはずなのに、岩崎先生は、
「…アイツもお前みたいに、丁寧な態度がとれればいいんだけどな」
とわたしに言ってきた。
アイツ。だれと比較しているのかは、わからないような、わかってしまうような。
「まだ今は、ギリ2年生だけど。これからは大事な時期になってくんだから、体調管理には気をつけろよ」
「はい」
「じゃ、面談終わり」
岩崎先生はそう言って、アッサリと面談を締める。
そしてわたしの成績の資料が入っているファイルを、パタンと閉じた。
古い紙の、匂いがした。
この部屋は今まで、どれだけたくさんの生徒に使われてきたんだろう。
どれだけたくさんの先輩が、ここから歩き出していったんだろう。
「失礼しました」
頭を下げて、進路相談室を出ようとした時。
岩崎先生が「…あー、市ノ瀬」とわたしを呼び止めた。
いつものひょうひょうとしたものより、重たい声だった。
振り返って、先生を見る。



