まだ1度も、手をつけられていない料理。
お母さんは、不自然なニコニコ顔をわたしに向けて言った。
「真子ちゃんはがんばってるんだから、なーんにも気にしなくていいの」
気にするよ…。
心の中で、深いため息をついた。
でも、何も言わない。ヘンテコな笑顔を、ごまかすように顔にのせるだけ。
持ち上げていたおはしを、テーブルの上に戻した。
高校受験に、失敗した。
第1志望に、行けなかった。
それからというもの、お母さんは、わたしをハレモノみたいに扱う時がある。
ガッカリしたくせに、してないように振る舞う時がある。
お母さんの色んな物がこもっている目線が気になって、勉強は、家より塾の自習室ですることが多かった。
次こそは頑張らなきゃって。失敗しちゃダメだって。
そんな焦りから逃げるようにひたすらシャーペンを動かすから、勉強はわたしの中で、鬼ごっこのようなものだった。



