ギィ、ガタン。尻の下で、にぶい音が鳴る。
市ノ瀬は固まったまま、まだおれを見つめている。
「…気にせず、弾けば」
やっとのことで、おれは言った。
2人だけの音楽室では、その声は切り取ったように、目立って響いた。
「…おれ、イワコウにここ、掃除しろって言われてんだよ。べつにやらねーけど、やったフリっつーか。10分くらいはここにいなきゃなんねーから」
そう説明しても、市ノ瀬は視線をさまよわせただけで、何も言葉を返さない。
明らかに、戸惑っている様子だった。
それもそうだろうな、と思う。1人でひっそり練習しているところに、いきなり乱入されたんだ。
その上、きっと、多分。
…どーせ、おれみたいなヤツのことは苦手なんだろ。
目を細めながら、そう思った。
市ノ瀬の様子を見ていれば、そんなの簡単に想像がつく。



