2年ではじめて同じクラスになって、もう6ヶ月近く経つけど、市ノ瀬とは、ほとんど会話した記憶がない。
こうして1対1で向き合うことも、考えてみれば、はじめてのことかもしれない。
湧き出てそのまま、重力に逆らわずに落ちる、滝のような。
いじった形跡のない、真っすぐな黒髪。
それを束ねている2本のゴムも、髪との見分けがつかないほど、真っ黒なものだ。
スカート丈は、学校規則にばっちり従っていて。
イスに座っていることもあるせいか、その膝はすっぽり黒いスカートで、おおわれていた。
数秒間。沈黙が、続いた。
ピタリと手を止め、指を鍵盤にはりつけたまま。まるく見開いた瞳で、おれを見ている市ノ瀬。
急にきまりが悪くなって、おれはズカズカと音楽室に入っていくと、1番後ろの真ん中の席に腰をおろした。



