顔を上げなくてもわかった。
市ノ瀬は、おれのすぐそばにしゃがんでいた。
「不安にさせて、ごめんね…あの…」
言葉を探すように、市ノ瀬の声がこわばっている。
「…わたし、ね。あの…人前とか、目立っちゃうのは、苦手で……だから、みんなの前で一緒に教室出たりとかは…ちょっと、ね。こ…こわかったり、するんだ」
「………」
「でも、一緒に帰れるのは、嬉しくって。あの、飯田くんが……す、すきって。言ってくれたのも、すごく嬉しかったんだよ」
ゆっくりと、顔を上げた。
そばにある、澄んだ瞳。市ノ瀬のほっぺたは、真っ赤だった。
真っ赤になりながら、一生懸命、しゃべってくれていた。
「わたし、飯田くんのこと、知りたいって思うよ」
丸い瞳の中で、おれの姿がゆらゆら揺れる。



