首をかしげた。ドアをへだてた向こうから、音が聞こえたからだ。
ピアノの音だった。
かすかだけれど、とても優しく漏れてくる旋律。
ついさっきまで想像していた、ガランと静まり返った音楽室の光景は、頭から吹き飛ぶ。
…だれか、いるんだろうか。
不思議に思いながらも、カラカラとドアを引いた。
同時に、なめらかに続いていたピアノの音が、ピタリと止まる。
1歩、音楽室内に踏み込む。
教室や廊下、他の場所にはない独特の無臭の空気に、体がつつまれていく。
そして、ピアノがある方向を見て、おれはまゆを寄せた。
そこにいたのは……市ノ瀬だった。
ピアノの前に座った市ノ瀬が、ハッとした表情で、おれを見つめていた。



