「市ノ瀬は、ほんとは嫌だったんじゃないか、とか。断れなかっただけじゃねーの、とか…思うし」
独りよがりなんだ。
自信につながる市ノ瀬の好き、が、少しも見当たらない。
「おればっか…おればっかり、好きなんじゃねーかって……」
スカートのすそをつかまえたまま、一方的に話し続ける。
たくさん伝えたいこと、言いたいこと、聞いてみたいこと。
あったはずなのに、全然うまく、まとまらなくて。
「おれと市ノ瀬はちがうっていうけど、そうなのかもしんねーけど……でももし、そうだったとしても、そんなの越えるくらい、おれは…」
…あー駄目だ。
言葉がもう、ぐちゃぐちゃだ。
「…飯田くん」
「あー……ごめん。かっこわり、忘れて……」
「ごめんね」
市ノ瀬の澄んだ声が、すぐ近くで響いた。
生地の突っ張りを、感じなくなった指先。



