「……飯田くんは、すごいね」
スッと。
流れる風にのって、市ノ瀬の声が聞こえた。
驚いて、顔を上げる。
市ノ瀬は、とても優しい顔で、おれのことを見ていた。
「…すごいね。みんな、歌ってたね」
「……え」
「最初あんなに、バラバラだったのに。すごい、きれいだったね」
ずっと聞きたかった市ノ瀬の声が、たくさん降ってきて。
おれはボーゼンとして、なにも言えなくて。
「飯田くんが、いたから。みんなの気持ちをまとめて…それで、一緒の方向に引っ張っていってくれたから…」
つながれた手を、振りほどいたりしないで。
市ノ瀬は、マヌケ面のおれに、満面の笑みを向けたんだ。
「…飯田くんは、すごい」
のぼってくるものが、あった。
体の内側。目の奥。熱い。苦しい。もどかしい。どうしようもなくて。
…たまらなくなって。
市ノ瀬を引き寄せて、抱きしめていた。



