以前はただ驚いただけだったが、落ち着いて観察できるようになれば、彼女が夢の中でしていることが分かった。

髪を梳く仕草。洋服を見立て、着替えの手伝いをする。それも相手は大柄な男性だ。なにかを持って移動しているカイラは必ず最後に自分の肩より上に手を上げ、背の高い人間に見せるような仕草をするのだ。

(……陛下のお世話をするのが好きだったって言ってたよね)

ロザリーは知らない、陛下とカイラが侍女だった時のふたりの時間。
それはおそらく彼女にとって、とても幸せな時間だったんだろう。

「……カイラ様、そろそろ寝ましょう」

夢の中にいるカイラからは返事がない。それでも、ロザリーの誘導に、素直にベッドへと向かった。
横になって、寝息が落ち着くまでの間、手を握ってみる。
温かくて、傷ひとつない綺麗な手だ。

(でもカイラ様は、こんな贅沢がしたいわけじゃないかもしれない。きっと、自分の仕事で誰かの役に立ちたかったんだよね)

ロザリーが来てから、ずいぶん症状がよくなった、と侍女も言う。
カイラに必要だったのは、“誰かの世話を焼く”という行為だったのではないだろうか。

ロザリーはすっかり寝付いたカイラの手を、布団の中に戻し、静かに部屋を出た。
心配そうに廊下で待っていた侍女は、ロザリーに会釈し、扉に再び鍵をつける。

「夜中なのにありがとうございます」

「いいえ。……あの、私もお願いがあるんですが」

続くロザリーの言葉に、侍女は目を丸くして、渋々ながら頷いた。