「かしこまりました。でも、どうぞお体を冷やされないようにご注意くださいね。お風邪を召されては大変ですし」

「ありがとうございます、注意します」


朝早い時間帯と夜遅い時間帯は、特に冷え込む。


昼間は大丈夫な装いでも、早朝と夜間は大丈夫じゃない、なんてことはたくさんあるわけで。


瀧川さんがその加減を間違えるはずもないし、仕事が回らなくなるってことはないだろうけど、お休みしたら大変だろう。

瀧川さんもおつらいし。


何より、瀧川さんに会えなくなるのは寂しい。


でもそれは私が勝手に寂しくなるだけだから、店員としてお客さんにかけてもおかしくない言葉に言い換える。


いつも、こうして何気なく話す度に、やっぱり好きだって言わなくて正解だったと思う。


理性めいた寂しさが、ふいに私を戒める。


瀧川さんに恋をすることと、いつでも胸を占める抑えきれない切なさとは、決して切り離せない。


……私のこの初恋は。


この恋は、どうしようもなく無謀で、どうしようもなく叶わないのだ。


『あなたには。あなたには、関係のないことです』


私はあれからずっと、少し前に言われた言葉を恐れている。


またはっきり拒絶されてしまうのが怖い。


だから、こんな何気ないただの会話でさえ、慎重に慎重に言葉を選ぶ。口を閉ざす。


私は十年以上も前から、恋心に無自覚なほど子どもでもなかったけれど、恋心を忘れられるほど大人になりきれもしなかった。

悲しいことに、今も。


……中途半端なのは、自分が一番分かっている。


私は中途半端なまま、もうずっと何年も距離を測りかねている。


測りかねて、詰めようとして、考えて、そうして結局怖気づいてやめてばかり、いる。