「コーヒー一杯程度の時間だけ」
「え?」
「コーヒー飲んだら私は行くからね」
「あっ……ありがとうございます!」

みのりさんはそう言って、先に店へと足を踏み入れる。
それに続いて私も入店すると、みのりさんはこの店に慣れている様子で私を先に席へと促した。
それはボックスの席ではなく、窓際のカウンター席。

窓際にあるカウンター席にはほかのお客さんが誰もいなくて、迷いながらも私はみのりさんが座る席から一席空けたところに腰を据えた。
話は十分できる距離だし、まさかこの間に誰かが割り込んでくるほど混雑してないし、大丈夫かな。

「コーヒー?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、コーヒーふたつ」

彼女は私の分まで店員にオーダーし、黙り込んだ。

どうしよう。まずはなにから質問しよう。
コーヒー一杯飲み干すまでの時間だもの。必要な質問から先にしなくちゃ。

いつ切り出そうかとみのりさんの動向を窺う。彼女はまるで私の存在などないみたいに過ごしていて、私はついそわそわする。

「ええと、その。私、あなたや彼を探していて。ダメ元で探偵のような業種の事務所を訪問していたのですが」

すると、窓の外一点を見つめたまま、みのりさんが頬杖をついて開口した。

「どれだけの数当たったわけ? かなりの数でしょ。今まで当たってきた事務所に依頼してウチを探したほうが断然効率良かったんじゃないの? あれからひと月くらい経ってるってことは、自力でここまで来たんだろうから」
「あ。そう思ったんですけど、お金そんなにないし、自分で探したかったから……」
「……ふん。バカみたい」

小さく鼻で笑うようにして言われたけど、不思議とムッとはこなかった。
ただ単にバカにして笑ったようには感じなかったからだ。

そこにコーヒーが運ばれてくると、みのりさんはそのまま口に運んでカチャリとカップを戻した。

「それで?」