「茉莉は軽めがいいみたいだし、パンでいいんじゃない?」
「あらそうなの? じゃあトーストね」

こういうことは、日常茶飯事だった。
今でこそ、看護師という仕事をしているお姉ちゃんと過ごす時間はほとんどなくなったけれど、それまでは、小さい頃からこんな感じ。

お姉ちゃんは、気が利いて頭の回転も速いから、いつでも先回りするように私の代わりに説明してくれた。
もたもたとしている私を待っていられなくて、さっさとなんでも終わらせてしまう。

だけど、それに対して私は特にイヤだと思ったこととはないと思う。

今みたいに、私が口を開かなくても先にお母さんやお父さんに言いたいことを伝えてくれて、その内容も間違いじゃないものだったから余計に私の出る幕はなかった。

それが普通だったし、物心ついても反抗心よりも、『悪いな』って思うくらいだった気がする。

「パン焼けたわよ。ジャムでいいのよね?」
「お母さん、それは茉莉じゃなくて私の好み。茉莉はチーズなんじゃないの?」
「あら。そうだった? ごめん、もう焼いちゃった」

お皿に乗せてくれたトーストと、差し出しかけたジャムを見て、私は笑う。

「あー、いいよ。ジャムでも。ありがとう」
「茉莉は相変わらずおっとりしてるよね。看護師向きではないね」

苦笑しながらお姉ちゃんがそう言って、冷蔵庫から出した水を飲み干すとリビングを出て行った。

「……いただきます」

横目でお姉ちゃんを見送って、ジャムを塗ったパンを頬張る前にひとこと言った。
その時にはもう、お母さんは忙しそうに出かける準備をしていて、私の声は届いてなかったみたい。

「じゃあ出掛けてくるね」

少ししてお母さんが忙しなく出て行くと、静かなリビングにひとりきりになる。
テレビもついてないリビングは本当にしんとしていて、パンを咀嚼する音ですら大きく聞こえる。

お母さんとお姉ちゃんと同時に話したのって、いつぶりだろう。
久しぶりだったけど、相変わらず私はそこにいるだけで、会話を交わすのはお母さんとお姉ちゃんだけだった。