一人抜いた恋夜が、ボールと共にゴールへ走ると、そこには相手チームのボーラーの中で一番体格の良い者が待ち構えている。


……が、しかし、その者に仕事をさせないよう、懐には論理がしっかりスクリーンに入っていた。


「そりゃっ!」


「させるか!」


「邪魔、させない」


恋夜の声と相手の声、そして、論理の見た目のいかつさからは想像出来ない柔らかな低音の声がコートに響く。


このまま競り合えば、跳躍力があるにしても細身で、相手に比べて小柄な恋夜は負けてしまう。


論理がカバーしていても、このままショットを放つのは至難の業。


「合法で攻めたって取れねぇよな」


果敢にダンクで入れようとしていた恋夜だったが、相手の伸ばした手を確認し、タイミングを外す。


そして、その上げた手をふわり、と金魚すくいのポイを動かす動作のように無駄なくスライドさせ、体が地面に引き寄せられるタイミングでボールと別れを告げた。


それは見事な、文句のつけようもないダブルクラッチ。恋夜と別れを告げたボールは、誰にも邪魔されずゴールリングへ挨拶する。


「おいおい凄いな、空中で何回動くわけ?」


「流石に二回が限度なんじゃん?空中で動くのはね」


相手の皮肉を含んだ称賛にも、恋夜は生意気に、不敵に、キラキラとした顔で笑う。


「おいハーシー!あんたスケジュール係のくせに遅刻!早く来ないと混ぜてやんないぞ!」


「おっと、気づかれてたか」


ゴールから葉月に振り返った恋夜のキラキラ輝く瞳に捕らえられ、葉月はいつも通りに八重歯を見せて苦笑いを落とした。