その時、私は眠りに落ちていた。



まっさらな洗い立てのシーツに包まれるようなやさしさの中で、胸にじわりと溶け込むように穏やかな声が聞こえた。



"後悔してない?"


憂いを含んだようにも聞こえるその声は、誰だっけ。

暖かくて、懐かしくて、ひどくやさしい。


"してないよ、後悔なんて"


私はそっと呟いた。


"それにもう、遅いんだよ。気づいたところで、もう遅いの"


きゅっと手を握った。


"まだ、間に合うかもしれないわよ"


励ますような暖かい声が、ボロボロに傷ついた心に染みる。

涙がこぼれそうになるほどの優しさを感じながら私は自分に言い聞かせるように言った。もういいの、と。


"みんなが幸せだから、それでいいの"


私が傷つけた人達が幸せになれるなら、それでいい。それがいい。


するとその声は優しさを保ったまま言った。

りんと響くような声だった。


"本当にそれを望んでいるの?"


どくんと心臓が跳ねた。


今更、何を言うの。

当たり前じゃないか。

それ以外に何を望むの。


グラグラと揺れそうになる決意を握りしめる。

私は決めたじゃないか。

私ばかり身勝手に振舞える訳がない。


"みんなの幸せ。それが月子の願いなの?"


そうだよ。

みんなが幸せなら、きっと私も幸せなんだ。絶対、絶対そうだ。


だから、だからお願い。


"本当は違うことを望んでいるんじゃないの?"


やめて、それ以上は。

違う、違うから。


それ以上言わないで。


私を苦しめないで。



"本当は怖いだけでしょう?"


やめて。


"怖くてたまらないんでしょう?"


やめて。


"それを言って自分が、相手が、傷つくことが怖いんでしょう?"


やめて。


"今あるこの居場所を失うのが怖いんでしょう?"



「やめて!」