浅倉が指定した時間よりも二十分ばかり早くスタジオに入ったのだが、驚いた事に心也と深海魚が既に来ていた。

「随分早いなあ」

 と深海魚に言うと、

「種明かしをすると、ここに泊り込んだんだ」

 店を出たのが朝方の五時近かったから、確かに泊まり込んだ方が理に適っている。

「浅倉は?」

「あっちだ」

 心也が指差した方を見ると、浅倉はモニタールームの椅子で高鼾を掻いている真っ最中だった。

「しょうがない奴だ。叩き起こすか」

 浅倉を起こそうとモニタールームに通じるドアに手を掛けた時に、私の携帯電話が鳴った。着信番号を見ると、那津子からだった。

(今、六本木交差点なの)

「車か?」

(ええそうよ。信号が青に変わったから切るわね)

「判った。気を付けて来いよ」

「なっちゃんかい?」

「うん、交差点まで来ている」

「目と鼻の先なのに気を付けて来いとは、何と無く間の抜けた電話だな」

「そうか?」

 気心が知れた者同士の遠慮無い会話は、私の高ぶっていた気持ちを幾らか静めてくれた。