どうやらあのモヤを吸い込んだ人はみんな同じようになってしまうらしい。


「あのモヤについて調べれば、元に戻るかもしれない」


良介の言葉に稲荷はうなづいた。


「だけど今日はもう帰りましょう。真っ暗よ」


そう言われて狭い空を見上げると、確かに夜になっていた。


この町はいつでも丸い球体が太陽の代わりをしているので時間の感覚がなくなってきてしまう。


「でも、もう少しでなにかわかるかもしれないじゃないか」


周囲はまだ明るいし、このまま帰るのは忍びなかった。


しかし、稲荷は首を縦には振らなかった。


「ダメよ。ここももうじき夜になる」


その言葉の意味がわからなかったが、稲荷が視線を向けた先に目をやると球体の明かりがどんどん消えていっていることがわかった。


その途端町から光が消えて真っ暗になる。


歩道も道路も線路も、もうどこにも人の姿はなくて真っ黒な闇に包まれていく。


ビルからもれ出る明かりだけが頼りになるらしかった。


「さぁ、早く帰りましょう」


稲荷に言われて、良介はうなづいたのだった。