金曜日の夜。

 その日は、一年前からあたしにとって特別なものになった。


 誰も知らない彼の秘密。

 あたしと彼だけの秘密の関係。


 それを考えると、まだ家にも着いていないのにドキドキしてくる。

 でもこのドキドキは隣にいる渡瀬くんのせい。

 近くにいるから、意識しちゃうんだよ。


 特に約束したわけでもないのに一緒になってしまう帰り道。

 何かを話すわけでもないのに隣を歩いている。


 渡瀬くんの方が足は長いからコンパスの差は歴然なのに、同じ速度になっているのは彼が合わせてくれているからかな?

 なんて、期待してしまう。


 地味だ、暗い、陰キャだと言われる渡瀬くんだけれど、あたしは本当の彼を知っている。

 地味で暗くて陰キャなのは事実だけれど、それだけじゃない彼の秘密。


 何も話さないまま家に着くと、最後に渡瀬くんが顔を近付けてボソッと声をかけてきた。

「じゃあ、夜に」

「っ、うん……」

 意外と澄んだ声をしているテノールボイスに囁かれるだけで、鼓膜が甘く痺れてしまいそうになる。

 それを気取られない様に、あたしは渡瀬くんを見ないようにして家に入った。