少し路地裏に入ってみたり、人込みに紛れてみたり。

 出来ることを駆使(くし)して彼らを撒く。


 そろそろ大丈夫かな?


 そう思って歩調を緩め周囲の様子に意識を向けた。

 今は大通りから少し横道にそれたところ。

 と言ってもそれなりにお店はあるからそこそこの通行人はいた。


 とりあえず追いかけてくるような足音は聞こえない。

 それが分かってホッと一息ついたときだった。


 店と店の間の薄暗い路地から手が伸びてきて、腕を掴まれ引き込まれる。

 マズイ、油断した!


 逃げて捕まってまた逃げてと疲労がたまってきたこともあって、集中力が切れやすくなっていたみたいだ。


 とにかく逃げなきゃ。

 その思いだけで暴れたけれど、相手はあたしをなだめるように「落ち着け」と声をかけてくる。


「ちょっ、マジ落ち着けって、美来!」

「!?」

 ピタッと、暴れるのを止めざるを得なかった。


 今の姿のあたしを美来と呼ぶのはこの辺りでは二人だけ。
 奏としのぶだけだ。

 でも、今目の前にいるのは彼らじゃない。


 あたしは驚きに目を見開きつつ目の前の久保くんを見た。

「……どうして、分かったの……?」