ケータイ小説 野いちご

お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

第1章*この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


**


「いい子だから、出ておいでー?どこに隠れてるのー?」


ーー麗らかな春の昼下がり。

小鳥のさえずりが聞こえるのどかな庭園。手入れの行き届いた花々。優雅なピアノの音色。そして、見上げるほど大きな白い屋敷。

ここは、ラインバッハ国の都市部から少し離れた土地に建てられた、ハンスロット一族の住まいである。

厳かな品の漂う敷地に唯一似合わないのは、ガサガサと揺れる茂みから覗く“オレンジのワンピース”だ。


「…あっ!みっけ!」


愛しさに溢れた私の声とともに、腕の中で『にゃぁ…』と子猫が鳴く。


「ふふっ。…だめじゃない、こんなところに迷い込んじゃ。…親とはぐれたの?」


くすくすと笑いながら囁くと、頭を撫でられる子猫は、ごろごろと喉を鳴らしながら私の手に擦り寄っている。

愛らしい瞳は甘えるように私を見上げていて、ふわふわの白い毛並みは、まるでぬいぐるみのようだ。


(…あぁ、可愛い…!後でミルクでも持ってきてあげなきゃ……)


ーーと。

屋敷の庭に迷い込んだ子猫にこっそり笑いかけた、その時だった。


「ーー見つけましたよ、お嬢様。」


「っ!!!」


ザッ!と、背後に立つ黒い影。

思わず、びくん!と肩を震わせて恐る恐る振り返ると、そこにいたのは呆れた表情の凛々しい青年。


「っ、アレン……!」


「…18歳にもなって隠れんぼをしているかと思えば、子猫とデートですか。…もう。屋敷中探したんですよ?」

< 1/ 164 >