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「いい子だから、出ておいでー?どこに隠れてるのー?」


麗らかな春の昼下がり。

小鳥のさえずりが聞こえるのどかな庭園に、手入れの行き届いた花々。優雅なピアノの音色…そして、見上げるほど大きな白い屋敷。

ここは、ラインバッハ国の都市部から少し離れた土地に建てられたハンスロット一族の住まいである。

厳かな品の漂う敷地に唯一似合わないのは、ガサガサと揺れる茂みから覗くオレンジのワンピースだ。


「あっ!みっけ!」


愛しさに溢れた私の声とともに、腕の中で『にゃぁ…』と子猫が鳴く。


「ふふっ。だめじゃない、こんなところに迷い込んじゃ。親とはぐれたの?」


くすくすと笑いながら囁くと、頭を撫でられる子猫は、ごろごろと喉を鳴らしながら私の手に擦り寄っている。

愛らしい瞳は甘えるように私を見上げていて、ふわふわの白い毛並みは、まるでぬいぐるみのようだ。


(あぁ、可愛い…!後でミルクでも持ってきてあげなきゃ……)


ーーと。

屋敷の庭に迷い込んだ子猫にこっそり笑いかけた、その時だった。


「見つけましたよ、お嬢様。」


「っ!!!」


ザッ!と、背後に立つ黒い影。

思わず、びくん!と肩を震わせて恐る恐る振り返ると、そこにいたのは呆れた表情の凛々しい青年だ。


「アレン……!」


「18歳にもなって隠れんぼをしているかと思えば、子猫とデートですか。もう。屋敷中探したんですよ?」