先輩は電車で二十分ほど離れたところに住んでいるらしい。

途中まででいいと言ったのに、彼は私の家まで送ってくれた。

私の家まで来ると、駅に行くのに遠回りになるから……と断ったのは多分口実で、響ちゃんと私の大切な空間に入ってほしくなかったのかもしれない。


「それじゃ、また明日」

「はい。ありがとうございました」

「八時にコンビニの前な」

「はい」


待ち合わせをして一緒に登校しようと誘われた私は、響ちゃんとの朝を諦めた。

私は先輩の"彼女"なのだ。
響ちゃんより先輩を優先するのは当たり前、だ。


先輩が優しかったおかげで、思っていたほど緊張することなく話もできた。
だけど……。


自分の部屋に飛び込んだ瞬間、涙がこぼれる。
本当は、ドーナツの味なんて、少しもわからなかった。