頭痛がする。内も外も鉄板でプレスされているような、ひどくゆったりとした重い痛みが朝から続いていた。


「なあ、アンタ」


上階に続く階段脇のベンチで翠を待っているあいだ、頭上からは色んな声が落ちてくる。耳を通り抜けては霧散するそれは痛みを増長させる外因にもなって、眉根を寄せた。


我慢していたけれど、このままではバイトにも支障をきたしそうで、バッグから頭痛薬を取り出し口に放り込む。すぐに噛み砕いてしまう癖は無意識で、いつまで経っても治らない。


「おい。そこの、黒髪で、薄着のやつ」


ジャスミン茶を喉へ流し込みながら翠の姿を探していた目が、一点で止まった。

階段から降り立った男の人が私を見ている。自身の背後に視線をやるが、自分の服を見遣り、かつ薄着と言われる点をいくつか確認したあと、男の人と目を合わせた。

「そうだよ、おまえのことだよ。寝惚けてんのか」

その人は私が座るベンチまで歩み寄ってくる。鬱陶しげに斜めへ切られた前髪の下で、切れ長の瞳が私を捉えた。


「法月のダチだよな」


ぴたりとそばに張り付かれて見上げる形になると、ようやく誰だったかを思い出す。いつだったか講義が終わったあと、廊下で翠を呼び止めた人だ。私は話したことがないけれど、姿を見かけたことは何度かある。


「翠なら、学生スーパーに行ってますよ」

「ならここで待たせてもらうわ」

電話出ねえんだよ、と。おそらく先輩であるその人は私の隣を陣取った。


膝の上にポーチやペットボトルのキャップを投げっぱなしにしていたために立ち上がるタイミングを失い、それらをしまうことで時間を稼ぐも当然すぐに手持無沙汰になる。