真っ暗闇の中心に、ぽっと丸くて小さな光が灯る。


夢だ、と反射的に目を瞑ろうとしても叶わない。これがただの明晰夢ならいいのに、どんどん色づいていく景色に為す術なく意識を委ねた。


微かに暗いままなのは、窓がないか日差しの入らない場所なんだろう。大学の一室だろうか。誰かの声がするけれどまだ聞き取りづらい。

でもこの、情報の多さは――。


『灯に近づかないでって言ってるでしょ!』


やはり翠だった。向かいに立つのは……関城先輩?


『承諾した覚えはねえよ』

『じゃあお願いします近づかないでください!』

『言い方の問題じゃねえんだが』


予感的中と言うべきだろうか。見るかもしれないとは思っていたけれど、まさか翠とセットだとは。


態度のぶれない関城先輩の飄々とした顔つきを想像しながら、悔しそうに押し黙る翠を心配した。これが翠の未来なのか関城先輩の未来なのか区別はできなくとも、穏便に収まってほしい。言い合いの原因が自分となればことさら。


『……分かった。でも、今は本当にやめてください。灯、口には出さないけど、いろいろ大変な時期で。今はすごくタイミングが悪いんです』

『それは前にも聞いた。俺も言ったよな? 確認したいことがあるって』

『だから、それがいちばん困るんだってば!』


空気が震えるほどの大声が、頭に直接響くようだった。

翠……? どうしたんだろう。何の話をしているんだろう。困るって何が。

私の戸惑いが影響したかのように、景色が歪み始めた。夢が、覚めてしまう。


『よく分かんねえな。べつに問い質そうとしてるわけじゃねえよ。アイツと会ったか、聞きたいだけだっつーのに。何がそんなにアカリの地雷なわけ?』


波打つ背景の中で唯一、はっきりと形を成すふたりの姿。私の意識が剥がれていくのを感じながら、視線を落としていた翠の唇が僅かに開くのを見た。


『だって、灯は――…』